胃カメラや大腸カメラを行う際に、眠って検査をしたり、痛みをとるための薬を使ったりするのが、日常に行われるようになりましたが、鎮静薬と鎮痛薬を適切に使わないと、かなり危険な状況になることも、しばしばあります。
- 「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」
- 「消化器内視鏡治療における鎮静法について」
- 内視鏡で使用される鎮静剤
- プロポフォールによる鎮静は胃カメラに有用なのか?
- プロポフォールによる鎮静は大腸カメラで有用なのか?
- まとめ
今回2013年に出された
「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」
2018年に掲載された
「消化器内視鏡治療における鎮静法について」
これら二つの論文をまとめてみた。
内視鏡検査前にるべきこと
1 .問診と診察
循環器・呼吸器疾患の有無,アレルギーの有無,飲酒・喫煙歴,内服状況を確認
2 .インフォームド・コンセント
鎮静の必要性および偶発症について十分説明する.
薬剤アレルギーや鎮静に伴う呼吸抑制が生じる可能性についても同意を得る
3 .モニタリング
鎮静剤を使って内視鏡検査行う場合には、患者の状態を観察し、意識レベルと呼吸循環動態の適切な監視が重要
当然ながら血圧・脈拍・呼吸数・SpO2の測定を行うことになりますが、SpO2だと、二酸化炭素の濃度の測定はできないため、呼吸器疾患を有する患者さんの場合には、カプノグラフィーを用いた呼気終末の炭酸ガス濃度を測定することも重要
鎮静剤を使って患者が死亡した、最も重要な要因は、呼吸抑制と気道閉塞である.
内視鏡では、どの程度鎮静したらいいのか?
* 内視鏡検査および治療の目的で行われる鎮静は主に中等度鎮静/鎮痛(意識下鎮静)
Ramsay 鎮静スコア3 ないし 4 が中等度鎮静(意識下鎮静)に相当する.
通常内視鏡検査における妥当な鎮静レベルは『問いかけまたは触覚刺激に対して意図して反応でき,呼吸循環機能と気道防御反射は維持されている状態』
CQ :内視鏡への不安や不快感の強い患者に対し,鎮静は有用か?
内視鏡診療において鎮静は,患者の不安や不快感を取り除き,内視鏡診療に対する受容性や満足度を改善する効果がある.
・フルマゼニル
ベンゾジアゼピン系の呼吸抑制に対する拮抗作用があり、呼吸抑制を直ちに軽減させることができる.
しかし,フルマゼニルの持続時間の作用時間より短いことから、再鎮静が生じる可能性もあることに留意が必要.
内視鏡で使用される鎮静剤
ベンゾジアゼピン系薬物:ジアゼパム(セルシン®,ホリゾン®)
ミダゾラム(ドルミカム®)
フルニトラゼパム(サイレース®,ロヒプノール®)
デクスメデトミジン(プレセデックス®)
麻薬性鎮痛薬 塩酸ペチジン(オピスタン®)
拮抗性鎮痛薬 ペンタゾシン(ソセゴン®)
静脈麻酔薬 プロポフォール(ディプリパン注®)
鎮静の偶発症としては,呼吸抑制,循環抑制,徐脈,不整脈,前向性健忘,脱抑制,吃逆などが挙げられる.
ベンゾジアゼピン系
薬理作用:中枢神経系における抑制系神経伝達物質である GABA の受容体を賦活することによって,鎮静や抗痙攣作用を発揮する.
副作用:無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下など
過鎮静,錯乱,昏睡が生じた場合には必要に応じて拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する.
塩酸ペチジン
薬理作用:モルヒネと同様にオピオイド受容体作動薬で,中枢性鎮痛作用を示し,その鎮痛効果はモルヒネの 1/5~1/1 である.モルヒネと比較して,本薬の尿閉・便秘発現作用等は弱く,呼吸抑制も軽度である.
副作用:呼吸抑制,過鎮静,依存性,興奮
急速静注によって,呼吸抑制・循環障害・心停止等が現れることがある.
麻薬拮抗薬(ナロキソン塩酸塩)を副作用が生じた場合に使用を検討する。
ペンタジン
薬理作用:強力な鎮痛作用と弱いオピオイド拮抗作用を有する.ペンタゾシンの鎮痛作用はモルヒネのおよそ 1/2~1/4 の効力である.
副作用:呼吸抑制,一過性高血圧,頻脈,発汗,嘔吐,尿閉.
プロポフォール
薬理作用:プロポフォールは広く中枢神経に抑制的に働く.GABAA 受容体を賦活し,N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容 2 体を抑制する.
副作用:低血圧,無呼吸,徐脈,アナフィラキシー
循環器障害のある患者や高齢者では,特に,呼吸抑制,循環抑制(徐脈,低血圧)に
は十分に注意する.
禁忌:ダイズ油,卵黄レシチンに対し過敏症の既往がある患者.
デクスメデトミジン
DEX は呼吸抑制が少なく,鎮痛・鎮静効果を併せもった薬剤であるが以下に注意
薬理作用:デクスメデトミジン(Dexmedetomidine;以下 DEX)はα2 アドレナリン受容体の完全アゴニストであり,青斑核や脊髄が作用部位であり,鎮静作用,鎮痛作用,交感神経抑制作用などがある.・投
副作用:低血圧,徐脈,冠動脈れん縮.
循環器系に関しては副作用が高頻度に発現するので注意する.
プロポフォールによる鎮静は胃カメラに有用なのか?
胃カメラ検査においてプロポフォールとミダゾラムを比較したRCTが報告されている
両群間に患者満足度・再検査希望率・検査記憶消失率および呼吸器循環器系抑制に有意差はない
一方すべての RCT で,鎮静からの回復時間はプロポフォールで有意に短い
この研究結果から考えると、上部内視鏡検査にプロポフォールは有用と考えられる。
プロポフォールによる鎮静は大腸カメラで有用なのか?
プロポフォールとミダゾラム+塩酸ペチジンを比較した研究で、患者満足度はプロポフォールで優れていた!! しかし差がなかったとの研究結果もある。
呼吸循環抑制の発生頻度については両群間で差はなく,鎮静からの回復時間・帰宅までに要する時間はプロポフォールで有意に短かったとしている.
しかも、呼吸循環系の副作用(低酸素血症,低血圧,不整脈,無呼吸)はベンゾジアゼピン系薬剤(ミダゾラム)+鎮痛薬に比してプロポフォールが低率??これ本当??
この研究結果から考えると、大腸内視鏡検査にプロポフォールは有用と考えられる。
まとめ
以上から、内視鏡検査で鎮静をする場合には、患者さんにあらかじめ十分な説明を行い、検査の際には、しっかりとしたモニタリング行うことが大切と思われる。
鎮静薬や鎮痛薬は、それぞれメリットとデメリットがあり、その点に十分注意しながら検査行う必要がある。
山内診療所では、胃カメラでは、経鼻内視鏡検査のため基本的には鎮静薬を使用しないが、患者さんが希望された場合には、プロポフォールを使用して検査行っている。
また大腸カメラでは、鎮痛薬(ペチジン)を使用して、検査を行っている。
もし患者さんが、眠った状態での検査を希望された場合には、鎮痛剤+鎮静剤(セルシン®またはプロポフォール)を使用して、検査行う方針としている。